所謂A級戦犯分祀案に対する靖國神社見解








去る二月十五日、テレビ朝日番組「サンデープロジェクト」で放映されました中曽根康弘元首相と田原総一朗キャスターとの対談において、中曽根氏からまたしても所謂A級戦犯分祀案が提言され、今回は分祀に対するご遺族の同意も得られそうだとの見解を示しました。しかも過去において、靖國神社が分祀案を頑固に反対したので果たせなかったとの発言もありました。このことは、翌日の朝日新聞朝刊にも報道されたことから、神社に対する問い合わせも多くありましたので、この際、靖國神社としての見解を明確にする必要を感じ、ここに発表させていただきます。







中曽根案によると、所謂A級戦犯で刑死された方々(政府は法務死、靖國神社では昭和殉難者と称しています)の神霊をご本殿から別のお社にお祀りするとの案ですが、この分祀案に賛成か反対かということ以前のこととして、神道の信仰上このような分祀がありうるのかということが一番大切なことです。

結論から申し上げますと、このような分祀はありえません。

本来教義・経典を持たない神道では、信仰上の神霊観念として諸説ありますが、昔より、御分霊をいただいて別の神社にお祀りすることはあります。しかし、たとえ分霊されても、元の神霊も分霊した神霊も夫々全神格を有しています。

靖國神社は、二百四十六万六千余柱の神霊をお祀り申し上げておりますが、その中から一つの神霊を分霊したとしても元の神霊は存在しています。このような神霊観念は、日本人の伝統信仰に基づくものであって、仏式においても本家・分家の仏壇に祀る位牌と遺骨の納められている墓での供養があることでもご理解願えると存じます。神道における合祀祭はもっとも重儀な神事であり、一旦お祀り申し上げた個々の神霊の全神格をお遷しすることはありえません。

なお、中曽根氏の発言によれば、過去靖國神社の神官の頭が固いために、分祀案が成就しなかったと述べられているようですが、時の今昔にかかわらず、靖國神社の信仰は今後も変ることはありません。所謂A級戦犯の方々の神霊の合祀は、昭和二十八年五月の第十六回国会決議により、すべての戦犯の方々が赦免されたことに基づきなされたものです。過去の歴史認識に対しては、夫々のお気持ちがあると思いますが、靖國神社は国家のために尊い生命を捧げられた神霊をひたすらお慰めし、顕彰する神社であります。

また、もし仮にすべてのご遺族が分祀に賛成されるようなことがあるとしても、それによって靖國神社が分祀することはありえません。

以上

平成十六年三月三日

靖國神社社務所









平成16年3月4日 一木会にて配布された資料より


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