三、大東亜戦争の目的と結果



大東亜戦争は日本が一方的に仕掛けた侵略戦争であるという風なことを勝者によって捏ち上げられた。日本国民の中にも「日本は無謀な戦争をしたものだ」と言う人が少なくない。その言葉は、戦争に参加しなかった国民ならともかく、聖戦に参加した戦友から聞くことは誠に残念である。若し大東亜戦争が無駄な戦争であったならば、靖国の英雄は犬死にしたことになり、生き残りの我々は負け犬となる。歴史は百年を経なければ、正鵠を期し難いと言われているが、戦後も四十余年、ぼつぼつ歴史を見通さなくてはならない頃である。


戦争は政治の一環であり、戦争目的は政治目的でもある。対外交渉に於いて、外交手段で政治目的が達せられないとき、戦争という非常手段に訴えることになる。多くの場合は戦勝によって政治目的が達成できるが、しかし戦争は一つの手段にすぎないから、必ずしも勝ったからと言って目的が思う様になるとは限らず、負けたからと言って目的が達せられないと決まってはいない。

それでは大東亜戦争の戦争目的(政治目的)は何だったのか?それらの目的は、戦後四十余年を経た今日、どのようになっているだろうか、その目的をいろんな角度から検討してみなれば

1、経済の安定

2、国防の安泰

3、アジア諸民族の解放、

と言う様に纏め上げられる。




(一)経済の安定



昭和に入ってからの日本経済は全く死に体であり、一部の富裕階層を除く大多数の国民は、貧乏を分かち合うという生活に甘んぜざるを得ない有様で、現在の豊かな感覚では想像できない貧乏国であった。日本が大陸に進出していったのも食わんが為であった。その日本が、今や経済大国と言われるまでに発展し、個人々々についての格差があるにしても、国民は世界で最も平和で豊穣な生活を享受している。経済の安定という政治目的は、四十余年がかりで立派に達成された。それは、勤勉努力を規範とする国民性と、祖先伝来の叡智によるものと雖も、中途半端な敗戦ではなく、何もかも徹底的に破壊し尽くされ、ドン底に落ちたことに依って却って新しい道を模索し追及する意欲を生んだことも見逃すことが出来ない。それにもまして大きな素因は、戦後直ちに始まった米ソ冷戦であり、日本経済に起死回生の転機を齎した朝鮮戦争とベトナム戦争であった。

そして天意とも言う可き此の訴因を造り上げたのは、日本を非武装にし、永遠の四等国として極東の一角に閉じ込めるというアメリカの方針も、米ソの冷戦に直面しては、日本を反共の防波堤として重視せざるを得なくなった為である。


一方戦勝国の戦後は如何であったろうか?台湾に逼塞させられた中華民国は論外として、ソ連や中共の国民生活は言うに及ばず、米国は日本に勝ったその日から、ソ連という大敵に対抗して軍備増強に迫られ、敗戦国から賠償を取るどころか、せっせと食糧を補給し、軍隊を派遣して守ってやらなくてはならなくなった。即ち敵が日本とソ連と入れ替わったに過ぎない。そして米ソ共に莫大な軍事費の支出に耐えかねて、国家経済が破綻して西側陣営に屈伏し、世界一の債権国から債務国に転落したのである。

イギリス、フランス、オランダも海外に保有していた広大な植民地の総てを失い、二流国に甘んぜざるを得なくなった。




(二)国防の安泰



戦前の日本は、北にソ連、西に中国、東に米国、南に英、仏、蘭と四周敵に囲まれており、とりわけ米ソは当面する最大の強敵であって、国家予算のかなりの部分を国防費用に回さなくてはならなかった。貧乏国日本にとって、膨大な国防費は国家経済の限界を超えた大きな負担であり、それだけ国民生活が圧迫されていたのである。

戦後の日本は、アメリカの大きな核の傘にすっぽりと覆われ、日米安保条約によってすっかり守られておった。曾つての占領軍は、今や番犬となり、日本はGNP一%程度の予算の二流軍隊でお茶を濁し、せっせと経済発展(金儲け)に専念した。四周にいた敵も、ソ連一国となり、それも今や熊から牛に変身してしまった。明治以来、国防がこれ程安泰になったことはなかった。




(三)アジア諸民族の解放



戦前の世界地図を見れば一目瞭然である。世界の大部分が白人の植民地であり、支配地域であった。第一次世界大戦の後設けられた国際連盟は、白色人種だけの繁栄と幸福を図ることを目的とした機関であり、有色人種は白色人種に奉仕する為の存在でしかなかった。戦後民族自決の気運が急速に高まり、日本が標榜したアジア諸民族の解放はアジアのみに止どまらず、全世界から植民地が一掃されるに至ったのである。大正時代、国際連盟で人種差別撤廃を提案した日本が、白人諸国の大反対で否決されたことを思うと、まさに今昔の感がある。

戦勝国またはこれに準ずる国が戦後失った植民地、保護領自治領などの支配地は、主としてアジア、アフリカ、大洋州などの後進地域に多く、如何に白人が世界を制覇していたかが解る。

ソ連と中共は広大な領土を簒奪し、武力で他国を押さえ付けていたが、力による征服には必ず末路があり、平成になってソビエト帝国は崩壊し、中共の崩壊も時間の問題となりつつある。


戦前には、白人種の前に卑屈な程に跪いていた有色人種が、何故、急速に自信と自覚を持つようになったのだろうか。戦後、英国宰相チャーチルが述懐して次のように言った。

「英帝国が終焉した理由は、英軍がアジア人の目の前で日本軍に惨敗したからである。一度失墜した権威を、もう一度掲げることは出来っこない。英軍は戦後も依然として強力だが、しかし世界の人々は、英軍がアジア人に負けたのを見てしまった」。

有色の日本がホンコン、シンガポールで英軍に大勝し、フィリッピンの米軍を駆逐したのを目のあたりに見た世界の有色民族から、長年の間に習性とまでになったいた白人隷属の卑屈な気持ちがヴェールを剥がすかのように一掃され、「白人優位、白人不敗」の神話は、これを機に音を立てて崩壊したのであった。

白人優位の帝国主義世界が続く限り、日米戦争が昭和十六年に勃発しなくても、何年後かに起こったであろうところの避けて通ることの出来ない宿命であったと思われる。まさに大東亜戦争は、有色人種の白色人種に対する壮絶なる巻き返しであり、そしてその力と気迫を持っていた国は、その当時は日本しかなかったのである。


このように此の黄白戦を見ると、日本は戦争に敗れたものの、四十余年がかりで大東亜戦争の戦争目的(政治目的)を立派に達成したと言う事が出来る。古今東西永遠に続く戦争はない。しかし政治は永遠に継続し、しかもそれは過去の足跡の上に積み重ねられるものである。

そして、この黄白の決闘以来、それまで世界の通念となっていた帝国主義が崩れ、国威宣揚の方策であり、美謀でさえあった戦争が罪悪という観念に変わり、世界平和と万邦協和こそ、それぞれの国が繁栄する最良の方法であることを知らされたのである。


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