私・・・そうだ。マッカーサーは日本に対して絶対的権
力者になったわけだ。終戦の年の九月二十七日に、天
皇陛下はマッカーサー元帥を訪問された。マッカーサー
は、多分天皇は命乞いに来たのだろう位に思って、開
襟シャツ姿のまま迎えにも出ず、居室で冷然と迎えた
のだそうだ。ところが天皇陛下は、命乞いどころか、
自分の身はどうなってもよいから、とに角飢餓線上に
ある国民を、元帥の力で救って貰いたいと懇請された
そうだ。陛下は最悪の場合、断頭台上に登られること
を覚悟して居られたのだよ。何故って当時の連合国側
の世論は厳しいものだったからね。
マッカーサーは、天皇陛下の一身を投げ出してでも
日本国民を救おうという御熱意にすっかり感激してし
まった。そして天皇陛下がお帰りになる時には、来ら
れた時とは打って変った態度で、丁寧に見送りされた
そうだ。マッカーサー元帥のこの時の感激が、その後
の占領政策にどの位影響を及ぼしたか、はかり知れな
いと思うのだよ。
私・・・そうだよ。そこが日本と外国との違うところさ。 外国の元首は戦争に敗けると、大抵自殺したり、外国 へ亡命するのがおきまりだからね。「自分の身はどう なっても国民を救ってほしい」などという言葉は、君 民一体の日本でなければ出て来ない言葉さ。天皇陛下 にとって、国民はみんなわが子なのさ。
私・・・いや心の奥底では知っているんだね。ただ空気 のようなもので、普段は余り気がつかないんだよ。
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